建築医学

51GF2Z2BNBL._SX351_BO1,204,203,200_

2009年からオリジナルカレンダーを制作しておりますが、年ごとにテーマを決め、各月のページにコラムを書いています。いずれも、他ではなかなか聞けない内容ですので、過去のものを少しご紹介したいと思います。今回は一番最初の2009年のものを転載いたしました。テーマは「建築医学」です。

 

人は病気を患います。数日で治るような軽いものは良いとして、一生付き合っていかなければならないような疾患もあります。それらの疾患がおこるのには、必ず原因があります。それは食生活・生活習慣の乱れやストレスなどと考えられてきましたが、最近になって、生活環境の影響が注目されるようになってきました。
一般にシックハウスと呼ばれる、化学物質等に反応して起こるアレルギー症状はわかりやすい例ですが、住環境の悪化が原因で、さまざまな病気をまねいていると考えられるようになってきました。
逆に考えると、食生活や生活習慣を改善することで、病気を予防したり症状をやわらげたりできるように、住環境を改善することによっても同じ効果があると考えられうようになってきました。これが「建築医学」の考え方です。
古来から伝わる”家相学”や”風水学”も、建築医学の考えと共通するところがあると思いますが、現代の建築医学は統計データにもとづいた科学的な実証の上に立つ学問です。それでも、100%そうなるというものではなく、統計的にそうなる確率が高いというものであり、その効果には個人差があります。

☆玄関は脳を安定させる
玄関は人の顔や脳にあたります。玄関が汚れたり散らかった家で暮らしていると、脳が委縮する傾向があります。整理整頓・清潔を徹底し、広々とした印象にすることで、ストレスが緩和され安定した精神状態を保てます。狭い玄関には鏡を置くとよいでしょう。玄関に入った瞬間「ホッ」とくつろげるような空間にしましょう。
☆寝室は心臓を守る
眠るとき、体も精神も無防備になるので、無意識のうちに環境の影響を強く受けます。ですから、寝室には心地よい安らぎ・くつろぎを演出すること重要です。インテリアはうすい色づかいにし刺激の強い色彩は避けましょう。広すぎず狭すぎず適度な広さにすることで安心感が増します。枕もとの電気器具も生体磁場を狂わせる恐れがあるので避けましょう。
☆リビングは肝臓を助ける
ゆったりとした適度の広さのリビングは疲れを癒し免疫力を高めます。家族みんなが集まってくるような工夫をし、コミュニケーションが弾めば、住人が活動的になり、自然治癒力も高まります。リビング階段は有効な手段の一つです。薪ストーブを置けば、温かさを演出すると同時に、炎が精神を安定させますので、最高の団らんの場となるでしょう。
☆キッチンは家族全員の体のために
キッチンの居心地が悪いと、そこで料理をする人の体を痛めます。すると、その人の作った料理の味が落ち、それを食べる家族の体力も衰えます。清潔で整頓されたキッチンで、楽しく料理をしていれば、家族全体の健康に好影響が現れます。特に冷えに配慮し、暖色系の色づかいやナチュラルなインテリアにするのが良いでしょう。
☆ダイニングは愛情の源
会話が弾む楽しい食事ができれば、良い家族関係が生まれます。楽しく和やかな印象のインテリアを心がけましょう。暖色系の色づかいは食欲を増進します。ダイエット指向の人は寒色を使ってもよいでしょう。照明は明るすぎると気が散ってしまい、暗すぎると重苦しくなって消化吸収を妨げますので、適度な明るさにしましょう。
☆トイレで不安や心配を流す
トイレは体においては腎臓にあたり、血液の流れともかかわります。腎臓は恐怖感と対応しているので、トイレで落ち着くことができれば、不安や心配ごとをぬぐい去り、安心感を得ることがことができます。また、繁盛店のトイレがきれいに掃除されているように、住まいのトイレをきれいに保つことは、人生の成功の必要条件だとか。
☆お風呂で疲れを落とす
お風呂は、腎臓・血液循環・自律神経・副交感神経などとかかわっています。換気・乾燥にも注意を払い、清潔に保つことで、家族の健康を促進できます。冬場はお風呂で重大な事故がしばしば起こりますので、寒さ対策も必要です。また、ジェットバス・ミストサウナ・照明・音響などにより、リラックス効果を高めることも有効です。
☆子供部屋は感性を育む
子供は感受性が強く、環境の刺激を受けやすいものです。インテリアは無機質なものを避け、素材感・色彩感・空間変化を感じられるような工夫をしましょう。もっとも、小さな子供は、お母さんのいるリビングやダイニングで過ごすことが多く、活発な親子のコミュニケーションを通じて、健全に育っていくものだと思います。立派な部屋は必要ありません。
☆間取りのポイント
建築医学的に見た良い間取りのポイントは3つあります。まずは使いやすさ。見かけを立派にするよりも、快適に暮らせる工夫をしましょう。次に動線がスムーズなこと。日常的に移動する線上に障害物があったり移動距離が長すぎたりしてはいけません。そして最後に、家族が顔を合わせることです。コミュニケーションが取りやすいような工夫が大切です。
☆廊下は明るく開放的に
大きい家になればなるほど、中廊下は暗くなりがちです。廊下が暗いと家全体が陰気になってしまいます。自然採光が無理な場合は昼間でも照明をつけ、換気にも気をつけましょう。また、部屋を廊下で区切るとコミュニケーションの妨げになります。長くて狭い廊下には、鏡をつけたり絵を掛けたり、変化をつけるよう工夫をして明るく演出しましょう。
☆階段は背骨と腰
1階と2階をつなぐものですから、人間でいえば背骨・腰にあたります。これがしっかりしていることで行動力がわいてきます。適切な高さで造られた階段を上り下りすることで、足腰が鍛えられ神経を刺激し脳が活性化します。活性化した脳により、行動力やチャレンジ精神が高まります。また、階段は事故が起こりやすい場所です。明るさにも気をつけましょう。
☆書斎は決断力を強める
子供には子供部屋があるのに、お父さんとお母さんは自分の部屋がなくていいのでしょうか?書斎は主人の隠れ家であり聖域となります。一人の時間を持つことで、思考力・知覚力を養い、決断力が増します。独立した部屋がなくても、ホッとできる場所をつくる工夫をしましょう。お母さんの書斎だって同じことです。

 

 

参考文献「建築医学入門」(松永修岳著、一光社)
「環境が心をつくり心が健康をつくる」(アンドリューワイル他著、日本建築医学協会編、一光社)

コラム記事一覧を見る